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東京高等裁判所 平成12年(行ケ)111号 判決 2000年9月20日

原告

雪印食品株式会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

清永利亮

同      弁理士

被告

特許庁長官 E

指定代理人

主文

特許庁が平成10年異議第76074号事件について平成12年1月26日にした決定を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「連結包装食品」とする考案(平成3年9月20日登録出願、平成10年4月3日設定登録。登録第2574527号。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。Jは、平成10年12月18日、本件実用新案登録について異議の申立てをし、特許庁は、この申立てを平成10年異議第76074号事件として審理した結果、平成12年1月26日、「実用新案登録第2574527号の請求項1ないし4に係る実用新案登録を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年3月8日、原告に送達された。

2  本件考案の要旨

【請求項1】収納部と周縁部とを有する包装体の収納部に食肉製品を収納し含気または真空包装してなる個包装した食肉製品包装体数個を少しずつずらしてその表及び裏にそれぞれ1枚ずつの紙帯またはプラスチック帯を当接してその収納部と周縁部とを順次連結貼付してなる連結包装食品。

【請求項2】紙帯またはプラスチック帯が裏に貼着剤を付けた印刷ラベルおよび/または印刷ステッカーである請求項1記載の連結包装食品。

【請求項3】食肉製品がスライスハムまたはソーセージである請求項1記載の連結包装食品

【請求項4】食肉製品包装体が真空包装されたものである請求項1記載の連結包装食品。

3  本件決定の理由

本件決定は、別添異議の決定書写し記載のとおり、本件考案が、特開昭51-122595号公報(以下「引用例1」という。)及び実願昭54-158540号(実開昭56-75169号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)に記載された各考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたとして、本件実用新案登録を取り消した。

第3原告主張の本件決定取消事由

本件決定は、本件考案と引用例1記載の考案の一致点の認定を誤り(取消事由1)、本件考案の相違点に係る容易想到性の判断を誤り(取消事由2)、本件考案の作用効果の判断を誤った(取消事由3)ものであるから、取り消されるべきである。

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)

(1)  引用例1記載の考案の「サドル・ラベル」は、サドル状を呈しているもの1枚であるのに対して、本件考案の「紙帯またはプラスチック帯」は、テープ状を呈しているもの合計2枚である。したがって、本件決定が、引用例1記載の考案における「サドル・ラベル」が本件考案における「紙帯またはプラスチック帯」に相当すると認定したこと(決定書4頁14行目~17行目)は誤りである。

(2)  本件考案は、収納部と周縁部とを有する食肉製品包装体数個を少しずつずらしてその表と裏にそれぞれ1枚ずつの紙帯又はプラスチック帯を当接してその収納部と周縁部とを順次連結貼付してなる連結包装食品であって、その周縁部のみを順次連結貼付してなるものではない。したがって、本件決定が、本件考案と引用例1記載の考案とを比較して、両者が収納部と周縁部とを有する包装体の収納部に食肉製品を収納してなる個包装した食肉製品包装体数個を少しずつずらしてその表及び裏に紙帯又はプラスチック帯を当接してその周縁部を順次連結貼付してなる連結包装食品である点で一致すると認定したこと(決定書4頁22行目~25行目)は誤りである。

2  取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断の誤り)

(1)  本件考案と引用例1記載の考案とは、その構成上、特に、引用例1記載の考案における「サドル・ラベル」と本件考案における「紙帯またはプラスチック帯」とがその構造、機能及び使用個数において相違すること、引用例1記載の考案は1枚の「サドル・ラベル」を用いて数個の個包装体の周縁部だけを連結するのに対して、本件考案は、2枚の「紙帯またはプラスチック帯」を用いて数個の個包装体の表と裏からその収納部と周縁部とを順次連結するものである点で相違することに起因して、作用効果において大きく相違する。

(2)  本件決定は、本件考案と引用例1、2記載の各考案とを比較して、引用例1記載の考案における周縁部のみの連結貼付に代えて、引用例2に開示された技術を適用して、表裏別々の紙帯又はプラスチック帯により収納部と周縁部とを順次連結貼付することは、当業者であれば極めて容易に想到し得るものと判断しているが(決定書5頁13行目~17行目)、この判断は誤りである。

(3)  引用例2(甲第4号証の1)には、1枚の連結テープによって個々の菓子を一列に連結する技術が開示されているが、2枚のテープを表裏別々に貼付して複数の商品を連結する技術は開示されていない。また、引用例2記載の考案は、個々の菓子をトレー又は外装袋の底に片寄らせないようにトレー又は外装袋内を移動させずに固定し、菓子の損傷を防止することを課題とするものであり、本件考案とはその解決課題が全く相違している。引用例2には、本件考案の課題を解決し得る事項はもとより、これを示唆する事項も記載されていないから、引用例1記載の考案に引用例2記載の事項を取り込むことが極めて容易であるということはできない。したがって、引用例2は、2枚のテープを表裏別々に貼付して複数の商品を連結する技術を開示するものではない。

(4)  一列に並べた複数の商品の表裏両面にそれぞれ1枚ずつのテープを貼付して商品を表裏において連結することを周知技術と認めることは、この点を否定した本件実用新案登録出願に係る先の審決取消判決(東京高裁平成9年(行ケ)第31号同年9月2日判決)の判断を無視するものであって許されない。そうである以上、そのことが周知技術であることを前提とした本件決定の判断は、明らかに誤りであるというほかはない。

3  取消事由3(作用効果の判断の誤り)

本件決定は、本件考案の作用効果と引用例1、2記載の各考案の作用効果とを比較して、本件考案の奏する作用効果も、引用例1、2記載の各考案から予測される以上のものでないと判断しているが(決定書5頁17行目~19行目)、この判断は誤りである。

本件考案は、「収納部と周縁部とを有する個包装体を少しずつずらしてその表及び裏にそれぞれ1枚ずつの紙帯またはプラスチック帯を当接してその収納部と周縁部とを順次連結貼付してなる連結包装食品」という構成を採ることによって、個包装体を数個まとめて販売しやすく、かつ、消費者が購入しやすい、個包装体の連結固定が十分に行われ簡単に数個の包装体を取り扱うことができる、店頭に陳列した場合見ばえがよくボリューム感のある連結包装食品が得られる、という作用効果を奏するものである。本件考案は、これら従来技術にない特段の作用効果を有するものであって、これは、引用例1、2に記載された各考案の作用効果から容易に予測されるものではない。

第4被告の反論

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1)  原告は、本件考案の「紙帯またはプラスチック帯」はテープ状を呈している旨主張するが、上記主張は、実用新案登録請求の範囲の記載に基づくものでなく失当である。そして、引用例1記載の考案の「サドル・ラベル」は、サドル状の1枚のラベルではあるが、水平に互いにずらした関係になるように組み合わせた4個の包装体の矩形状のへり部を互いに連結するためのものであって、ずらせた複数個の包装体の表と裏をそれぞれ連結する部材である点で、本件考案の「1枚ずつの紙帯またはプラスチック帯」に相当する。

(2)  本件決定は、包装体数個を順次連結貼付する位置が、本件考案では包装体の収納部と周縁部であるのに対して、引用例1記載の考案ではへり部のみであることを相違点として理解している。本件決定は、その上で、本件考案において包装体の収納部のみならず周縁部をも貼付部分として利用するものであるから、本件考案と引用例1記載の考案は、収納部と周縁部とを有する包装体の収納部に食肉製品を収納してなる個包装した食肉製品包装体数個を少しずつずらして、その表及び裏に紙帯又はプラスチック帯を当接してその周縁部を順次連結貼付してなる連結包装食品である点で一致すると認められる。これと同旨の本件決定の認定に誤りはない。

2  取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断の誤り)について

(1)  引用例1記載の考案で「サドル・ラベル」を使用したのが、包装体の表と裏のへり部を2枚のラベルを使用することなく1枚のラベルで連結するために採用されたものであることは、当業者であれば普通に理解することができる技術事項にすぎないものであって、包装体の表と裏をそれぞれ連結するため、本件考案のように表の連結のためと裏の連結のためにそれぞれ1枚の紙帯又はプラスチック帯を用いて連結することは、当業者にとって単なる設計事項にすぎない。

(2)  引用例2記載の包装構造は、個々の菓子を連結テープで菓子の収納部と周縁部とを順次連結貼付してスタンド方式で商品を陳列して販売する際に採用されるものであり、また、個包装した菓子をトレー内に入れずに外包装する場合には、それぞれの菓子だけを一連に連結テープで連結し、ブロック化するものである。そして、上記連結テープは、商品の輸送中又は取扱中の動きにおいても個々の菓子の移動を防ぎ、陳列した際に体裁が悪くなること等を防止するために使用されるものであるから、個包装した菓子をトレー内に入れずに外包装をする場合には、包装体の表だけでなく裏についても連結テープで連結してブロック化しなければ商品の輸送中あるいは取扱中に一連に連結された個々の菓子の移動を十分に防ぐことができないことは、当業者にとって自明のことである。

(3)  そうすると、引用例1記載の考案の「サドル・ラベル」と引用例2記載の考案の「連結テープ」は、共に複数の個包装体の連結手段として共通するものであるから、複数の個包装体の連結構造として、引用例1記載の考案におけるサドル・ラベルを使用した周縁部のみの連結貼付構造に代えて、引用例2に開示された技術にならって、本件考案のように表と裏にそれぞれ1枚ずつの紙帯又はプラスチック帯を当接して収納部と周縁部とを順次連結貼付することは、当業者であれば極めて容易に想到し得るものである。

3  取消事由3(作用効果の判断の誤り)について

原告が本件考案の特段の作用効果であると主張するものは、個々の包装体の表と裏の両面につきそれぞれ1枚の紙帯又はプラスチック帯でその収納部と周縁部を順次連結貼付するようにしたことによるものにすぎない。そうすると、本件考案の上記作用効果は、引用例2記載の考案の連結テープによる個々の包装体の連結構造を表と裏に採用したことによる作用効果にすぎないものであるから、引用例1、2記載の各考案から予測される作用効果以上のものではない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断の誤り)について

(1)  引用例1(甲第3号証)には、以下の記載がある。

ア 「本発明は複数の個々の密閉封止されたユニットが対応する縁部に沿い互いに固着されサドル・ラベルを取付けられその結果によるマルチ・ユニットの販売用包装物が掛けくぎを打込んだ板の型式の棚に展示できるようにし、個々のユニットには分離線が設けられて従ってそれぞれのユニットは包装物の残りのユニットを乱さずに容易に分離できるようにしてある。」(595頁右下欄7行目~15行目)

イ 「実際には、複数の個々のユニット5がまとめられ第2図に総体的に符号13で示した如きマルチ・ユニットの配給包装物になるよう一緒に固着される。包装物13において、4個の個々のユニット5は同じ向きにされそれらの細長い上部のへり12を周知の市販の機具を使用して熱密封の如き方法により一緒に固着される。次いで、サドル・ラベル14をまとめたへり12にかぶせこのようにして形成された組合わせ体に掛けくぎ受け孔15を形成する。もし所望ならば、サドル・ラベル14は個々のユニット5の並べたへり12が合わされた後であるがしかしへりが密封される以前にかぶせて次いでサドル・ラベルを含む組合わせ全体を超音波密封すなわち合体することができる。」(597頁左下欄14行目~右下欄12行目)

ウ 「第6図ないし第8図の具体例について説明すると、・・・個々のユニット31はまた第6図と第8図とに示した如く水平に互いにずらした関係になるようマルチ・ユニット包装物30に異なる位置にして組合わされる。このようにするには個々のユニットの頂部には分離線35の上の矩形状のへり部34を互いにまとめるのに前記した具体例のサドル・ラベルより長いヘッダー・ラベルすなわちサドル・ラベル33を使用する必要がある。」(598頁右下欄4行目~599頁左上欄5行目)

(2)  本件決定(甲第1号証)には、引用例1記載の考案として具体的にどのような態様のものを認定したのかについて記載はないが、「引用考案における上記「ユニット31」が互いにずらして、該「ユニット31」の「へり部34」の表および裏に、「サドル・ラベル33」が当接して」と記載され(4頁19行目~21行目)、「ユニット」、「へり部」及び「サドル・ラベル」に付された符番が引用例1に記載された図面のうち第6図及び第8図とのみ一致すること、「互いにずらして」との記載が上記第6図及び第8図の具体例の説明である上記ウの記載のみと一致することに照らすと、本件決定において引用例1記載の考案が第6図及び第8図の具体例を意味することは明らかである。そして、上記ウの記載には、個々のユニットを固定する態様につき具体的記載がないから、上記イの記載と同様の手段により固定がされると理解するのが相当である。すなわち、引用例1記載の考案では、個々のユニットは、それらの細長い上部のへりを周知の市販の機具を使用して熱密封のごとき方法で固着されるか、又は個々のユニットを並べた後にサドル・ラベルをかぶせてその後に組合せ全体を超音波密封するものである。

(3)  そうすると、引用例1記載の考案では、個々のユニット同士は熱密封又は超音波密封により互いに連結固定されているのであって、サドル・ラベルはユニットを連結するために用いられているものではない。引用例1のサドル・ラベルは、接着剤により個々のユニットと固着され、その結果としてユニット同士の連結に寄与することがあり得るとしても、サドル・ラベルなしでも連結固定されているその固定部にかぶせるものであるから、いわばカバーとしての機能を果たすものであって、本件考案の「紙帯またはプラスチック帯」及び引用例2の「連結テープ」とは機能上別異のものというべきである。

(4)  また、引用例1記載の考案においては、(1)のウの記載並びに第6図及び第8図にあるとおり、サドル・ラベルは個々のユニットの分離線の上側に貼付されるものであって、このことにより、(1)のアの記載の「個々のユニットは包装物の残りのユニットを乱さずに容易に分離できるようにしてある」という構成が可能となるのであるから、サドル・ラベルの貼付位置は、分離線の上側、すなわち、へり部しかあり得ない。仮に、これを引用例2記載の考案のように収納部を含むように変更すると、引用例1記載の考案における前記構成をとることができないから、そのようなことは、当業者が極めて容易に想到し得るものということはできない。さらに、引用例1記載の考案では、(1)のイの記載のように、個々のユニット同士が固着される位置にサドル・ラベルをかぶせるものである以上、サドル・ラベルの貼付位置が収納部を含むようにすると、個々のユニット同士が固着される位置も同じく収納部を含むこととなるが、そのような構造では、熱密封または超音波密封により食肉製品が変質することとなるから、引用例1記載の考案のサドル・ラベルの貼付位置をこのように変更することはできないものと認められる。

(5)  被告は、引用例1記載の考案の「サドル・ラベル」と引用例2の「連結テープ」は、共に複数の個包装体の連結手段として共通するものであるから、複数の個包装体の連結構造として、引用例1記載の考案におけるサドル・ラベルを使用した周縁部のみの連結貼付構造に代えて、引用例2に開示される技術にならって、本件考案に想到することは、当業者であれば極めて容易であると主張するが、引用例1記載の考案の「サドル・ラベル」と引用例2記載の考案の「連結テープ」の機能が異なることは前示のとおりであり、また、引用例1記載の考案において引用例2に開示される技術にならうことがあり得ないことも前示のとおりである。

(6)  したがって、引用例1記載の考案における周縁部のみの連結貼付に代えて、表裏別々の紙帯又はプラスチック帯とし、表裏別々の紙帯又はプラスチック帯で収納部と周縁部とを順次連結貼付することが、当業者にとって極めて容易に想到することができるとはいえない。

2  このように、原告の主張する取消事由2は理由があり、この誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき判断するまでもなく、本件決定は取消しを免れない。

よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)

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